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2016/09/22
キーエンス創業家相続税対策に失敗、株式贈与1500億円申告漏れ

キーエンス創業家が資産管理会社(持株会社)を利用して相続税対策のために株式の贈与を行ったが、国税はキーエンス創業家の相続税対策を認めず1500億円の申告漏れを指摘しました。

またしても資産管理会社(持株会社)を利用した相続税対策を国税が認めないとする報道がなされました。
2016年8月29日の産経新聞において、銀行が提案した自社株対策を国税が認めず訴訟になっている事例が多発しているとの報道があったばかりでした。
これについては、2016年9月5日付の税理士長嶋の相続税対策参考ブログ「銀行が主導した自社株の相続税対策が国税から否認され訴訟に」において詳しくご紹介しています。

このような報道が続いていることを考えると、自社株の相続税対策に資産管理会社(持株会社)や一般社団法人を利用することは、税務リスクが相当高くなっていると税理士長嶋は感じます。
国税が本気になっていることが伝わってきますので、今後の自社株の相続税対策には相当の注意が必要でしょう。

キーエンス創業家の報道から読み取れることは、次の2つです。
(1)キーエンス創業家は相続時精算課税制度を利用して株式贈与を行った可能性が高い
(2)国税がキーエンス創業家の相続税対策を認めなかった根拠が「財産評価基本通達第6項」の可能性が高い


 

(産経新聞:2016年9月17日)
キーエンス創業家、1500億円申告漏れ 株贈与、300億円追徴課税 大阪国税、資産管理会社の評価減認めず
http://www.sankei.com/west/news/160917/wst1609170046-n1.html

センサーや計測機器の大手メーカー「キーエンス」(大阪市東淀川区、東証1部)の創業者、滝崎武光名誉会長(71)の親族が大阪国税局の税務調査を受け、同社株を保有する資産管理会社の株式の贈与をめぐって約1500億円の申告漏れを指摘されたことが17日分かった。
過少申告加算税を含めた贈与税の追徴税額は約300億円。

キーエンスの筆頭株主は創業者の資産管理会社、ティ・ティ(大阪府豊中市)で、今年3月現在で発行済み株式総数の17・87%(16日終値で7823億円)を保有する。

関係者によると、滝崎氏らはティ・ティの経営にかかわる別会社を設立し、別会社の株式を親族に贈与。
親族は、法人を親子関係にすると株式評価額が下がると規定する国税庁通達に沿って贈与税の申告を行った。
これに対し、国税局は通達の形式適用を認めず、申告された別会社の株式評価額が低すぎると認定し、課税したもようだ。

滝崎氏は昭和49年にキーエンスの前身となる会社を設立。
平成12年まで社長、27年まで会長を務めた。
同社の28年3月期の連結売上高は2912億円、最終利益は1056億円。




【キーエンス創業家は相続時精算課税制度を利用して株式の贈与を行った可能性が高い】
この新聞報道から感じたことは、追徴された贈与税があまりにも小さいということです。
親子間の贈与で一定の条件を満たしたときは、平成27年以降、贈与された財産が4500万円を超えると贈与税率は55%です。

1500億円の申告漏れであれば、単純に750億円の贈与税が課税されるはずですが、追徴された贈与税が300億円です。
この状況から考えられることは、相続時精算課税制度を利用して贈与がなされたことが推測できます。

相続時精算課税制度を利用したときの贈与税は、次の算式により計算します。
贈与税=(贈与された財産の価額-2500万円)×20%

単純に1500億円×20%=300億円となり、報道されている追徴税額の300億円と同額であることから、相続時精算課税制度を利用した可能性を推測することができます。

 

 

【相続税法における財産評価】
相続税や贈与税の財産評価は、相続税法22条において次のように定められています。
「この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、その財産の取得の時における時価により、その財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」

つまり、財産の評価は相続や贈与があったときの時価により評価することが原則となっています。
しかしながら、実務上は「財産評価基本通達」により相続財産を評価することとなっています。
財産評価基本通達において財産の評価の原則及びその具体的評価方法等を定めることになったのは、次のような理由からです。
・相続税等の課税対象となる財産は多種多様であること
・財産の評価は必ずしも容易ではないこと

財産評価基本通達を定めることで、国税内部の財産の評価に関する取扱いを統一し、課税の適正化・公平化を図ることを目的とされています。

ところが、キーエンス創業家は国税が定めた財産評価基本通達の通りに財産の評価をして贈与税の申告・納税をしたが、国税はそれを認めず1500億円の申告漏れを指摘しました。
その理由は「財産評価基本通達第6項」にあると考えられます。

 

 

【財産評価基本通達第6項の趣旨】
財産評価基本通達第6項には次のような定めがあります。
「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。 」

国税がなぜ財産評価基本通達第6項を適用したのか。
それを理解するには、そもそもの話として財産評価基本通達が定められた趣旨を理解しなければならないでしょう。

現在の財産評価基本通達は平成3年に定められたもので、それ以前は次の2つが相続税・贈与税の財産評価の基準とされていました。
・昭和39年「財産評価基本通達」
・国税庁長官通達「相続税財産評価に関する基本通達」

現在の財産評価基本通達が定められた平成3年はバブル経済崩壊直後であり、地価の急激な下落がみられたように社会経済情勢の変化に財産評価基本通達が対応できなかった歴史的な事実があります。
また、その当時、取引相場のない株式の評価など財産評価基本通達の隙間を利用した相続税の回避事例なども見られました。
そのため、財産評価基本通達に定める評価方法を形式的に適用することは、その財産の時価と大きく乖離した結果を招くこととなり、課税の公平を著しく欠くケースが生じることも考えられます。

このようなことから、財産評価基本通達は税法ではなく、あくまでも国税職員のみを拘束する内部文書として存在する「通達」であり、財産評価の方法として単に一般的な基準として定めているに過ぎず、このような著しく不適当な状況が発生することを前提としているからこそ、個々の財産の状況に応じた適正な時価の評価を行うことができるように「財産評価基本通達第6項」を定めているものと考えられます。

財産評価基本通達第6項は、財産評価基本通達に定める個別の評価方法により財産を評価した価額と、相続税法第22条に規定する「時価」との間に著しい乖離があると認められる場合には「著しく不適当」と認め、財産評価の大原則である相続税法第22条に定める「時価」により財産評価を行うとする趣旨と考えられます。

 

 

【財産評価基本通達により評価した価額が「著しく不適当」であるとされる事例】
では、財産評価基本通達で評価した価額が「著しく不適当」であると認められる事例とは、どのような事例なのでしょうか。
大きく次の2つに分けることができます。
・財産評価基本通達の定めによる評価方法が社会経済情勢等の著しい変化に対応できていない場合
・一般的な財産評価の基準を定めているに過ぎない財産評価基本通達が法的効力を有するとして財産評価基本通達を適用して財産の評価を行い、相続税や贈与税の租税回避を行っている場合

特に、相続税や贈与税の租税回避を行うことを目的としている場合において、財産評価基本通達により評価した価額が正当な価額であると国税を認めさせるためには、次のような点を総合的に検討する必要があるでしょう。
(1)財産評価基本通達に定める評価額と相続税法第22条に規定する時価との間に著しい乖離があるかどうか
(2)被相続人や贈与者が行った行為の背景や事情から、その実行した行為について経済的合理性があるかどうか。
(3)被相続人や贈与者が行った行為により、相続税や贈与税の税負担の公平性を保てるかどうか。
(4)相続税法の立法趣旨である富の再分配機能に反していないか。
(5)財産評価基本通達の趣旨である客観的交換価格(時価)をできるだけ簡単な方法で的確に算定することができるかどうか。
(6)財産評価基本通達に定められている方法以外の評価方法が、相続税法第22条に定める時価と比べて合理的な方法かどうか。

キーエンス創業家の贈与税について国税が申告漏れを指摘した理由は、税理士長嶋個人的には上記(2)の経済的合理性があるかどうかが大きなポイントになったのではないかと感じます。
・キーエンス創業家の資産管理会社「ティ・ティ」の株式を現物出資して、別会社を設立する合理的な理由があったかどうか
・別会社の株式を親族に贈与する合理的な理由があったかどうか
・資産管理会社「ティ・ティ」の株を直接親族に贈与する場合に比べて、財産の評価額に大きな乖離があったのかどうか

単に相続税を逃れるためだけに別会社を設立し、その別会社の株式を親族に贈与したとすれば、それは資産管理会社「ティ・ティ」の株式を親族に贈与したのと同じであると指摘されても文句は言えないでしょう。

 

 

【なぜキーエンス創業家は素人のような相続税対策を実行してしまったのか?】
税理士長嶋の個人的な感想ですが、なぜキーエンス創業家はこんな素人のような相続税対策を実行してしまったのでしょうか。
当然のことながら顧問税理士や顧問弁護士がいるはずですが、なぜ彼らは止めようとしなかったのか。

資産管理会社を利用した自社株の相続税対策を国税が認めなかったのは、キーエンス創業家が初めてではありません。
記憶に新しいところでは、2014年12月にトステム創業家が110億円の申告漏れを指摘され、相続税60億円の追徴課税を受けており、これも当時新聞報道がなされました。
これについて2014年12月24日付の税理士長嶋の相続税対策ブログ「トステム創業家110億円申告漏れ、相続税60億円追徴課税」においてご紹介しています。

なぜ顧問税理士や顧問弁護士はトステム創業家の過去の失敗事例から学ぼうとしなかったのでしょうか?

 

税理士長嶋はいつも指摘することですが、上場企業オーナーにおいてこのような新聞報道がなされることで大きな痛手になるのは、創業家の名前に傷が付いてしまうことです。
このような結末が予測されるのであれば、素人のような相続税対策を実行せず、素直に税金を払ったほうがまだマシでしょう。
キーエンス創業家の顧問税理士や顧問弁護士は、このリスクを理解していなかったのでしょうか。

 

 

【相続税対策参考ブログ】
・自社株の相続税対策に銀行から借金をする必要があるのか?(2017/04/06)

・持株会社を活用した自社株の相続税対策はうまくいくのか?(2016/08/03)

・オランダなど海外法人節税防止へ、ユニクロ柳井氏どう動く?(2016/07/05)

・相続税対策に持株会社を活用することに限界を感じた(2016/05/18)

・会社経営者の相続税対策が困難を極める3つの理由(2016/04/04)


・自社株の相続税対策に相続時精算課税は意味がない(2015/04/14)


・相続税対策を監査法人に相談したが解決できない(2013/04/26)

・相続税対策に持株会社は意味がない(2012/05/23)

自社株の相続税対策にこんな不満をお持ちではありませんか?