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2014/11/10
医療法人の相続税対策に納税猶予制度は意味がない

平成26年度税制改正により、医療法人の出資持分に対する相続税・贈与税の納税猶予制度が創設されました。
これに併せて、出資持分あり医療法人から出資持分なし医療法人へ円滑に移行ができるよう医療法の改正が行われ、平成26年10月1日から施行されました。
これを踏まえて、このほど厚生労働省が医療法改正に関する説明会を医療関係者向けに行いました。

結論から申し上げると、医療法人の出資持分に対する相続税・贈与税の納税猶予制度が創設されても、誰も利用しないことが予想されるためまったく意味がない制度になるでしょう。
これに伴い、平成26年10月1日から施行される改正医療法も誰にも利用されない制度になることが予想されます。

厚生労働省は「持分なし医療法人への移行を検討しませんか?」というパンフレットを作成していますが、誰も利用することがないまったく意味のない制度になるでしょう。
報道のような医療関係者への説明会を開いたところで、持分なし医療法人への移行が進まないことは目に見えており、説明会に参加している医療機関は顧問税理士から相続税や事業承継の助言を受けていないのでしょう。


持ち分なし医療法人、厚労省が移行促進-説明会開催、医療関係者130人参加


(2014年11月6日:医療介護CBニュース)
「持ち分なし」医療法人への移行計画の認定制度が10月から始まったのを受け、厚生労働省は6日、移行計画の認定から持ち分なし医療法人への移行の流れなどに関する説明会を開いた。
満席に近い約130人の医療機関の関係者が詰め掛けるなど、認定制度への関心の高さがうかがえた。【新井哉】

2007年施行の第5次医療法改正によって、持ち分ありの医療法人の新規設立はできなくなったが、既存の持ち分あり医療法人については、経過措置が取られている。
ただ、医業を承継する上で、持ち分あり医療法人の出資持ち分が増加していると、相続税が高額になって支払いが困難になったり、出資持ち分の払い戻しの請求権が行使された場合、経営面でのリスクが生じたりする恐れもある。

この日の説明会では、厚労省医政局医療経営支援課の担当者が、10月から17年9月末までの3年間、移行計画の認定制度が実施されることなどについて、同省が9月に発行した移行に関する手引書に沿って、税務関連の具体的な助言などを盛り込みながら解説した。

厚労省の担当者は、持ち分なしへの移行について「あくまでも医療法人の任意の選択」としつつも、移行計画の認定を受けた医療法人のケースでは、持ち分に対応する相続税の納税が移行期間満了まで猶予され、持ち分のすべてを放棄した場合は猶予税額が免除されるといった税制上の支援を受けられることを強調した。

また、出資者や相続人から払い戻し請求があり、自己資金だけで対応できない際は、独立行政法人福祉医療機構による新たな経営安定化資金の貸し付けを利用できることにも言及。
1施設当たりの貸付限度額が2億5000万円であることなどを挙げ、融資制度の積極的な活用も促した。

質疑応答では、参加者から「移行計画を1年前倒しした場合は問題となるのか」「どの時点で税務署に相談に行けばいいのか」といった質問が出た。
厚労省は14日にも同様の説明会を開催する予定で、今後も持ち分なし医療法人への移行を働き掛ける方針だ。





【医療法人の出資持分に対する相続税の納税猶予制度とは?】

医療法人の出資持分に対する相続税の納税猶予制度は、次のような内容となっています。

(相続税の納税猶予:租税特別措置法第七十条の七の八)
「出資持分あり医療法人の出資持分を有していた被相続人から相続又は遺贈により出資持分あり医療法人の出資持分を取得した場合において、その医療法人がその相続に係る相続税の期限内申告書の提出期限において厚生労働大臣認定を受けた医療法人(認定医療法人)であるときは、その相続人等がその相続税の申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、その出資持分の価額でその相続税の申告書にこの規定の適用を受けようとする旨の記載があるものに係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、その相続税の申告書の提出期限までにその納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、認定移行計画に記載された移行期限まで、その納税を猶予する。 」

相続などにより出資持分あり医療法人の出資持分を取得した個人に対して相続税の納税が猶予されるというものです。

(相続税の免除:租税特別措置法第七十条の七の八11項)
「認定医療法人の認定移行計画に記載された移行期限までに認定医療法人の持分の全てを放棄した場合には、納税猶予分の相続税額は免除する。」

認定医療法人の移行期限までに相続した出資持分をすべて放棄した場合には、相続税の納税が免除されます。

 

【相続税の納税猶予制度が創設されても医療法人に対する贈与税課税の問題は従来通り】
相続税の納税猶予を受けるには、出資持分あり医療法人の出資持分を放棄することが求められます。

このとき、相続税法第66条4項の規定により、医療法人を個人とみなして医療法人に対して贈与税が課税される可能性があります。

(相続税法第66条4項)
「持分の定めのない法人に対し財産の贈与又は遺贈があった場合において、その贈与又は遺贈によりその贈与又は遺贈をした者の親族その他特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、その持分の定めのない法人を個人とみなして、これに贈与税又は相続税を課する。」

(事例)
・出資持分あり医療法人の出資持分の相続税評価額20億円
・出資持分以外の財産はなし
・相続人は医療法人の後継者である長男のみ
・相続税額 10億2800万円

(出資持分あり医療法人から出資持分なし医療法人へ移行できた場合)
医療法人の後継者である長男の相続税額の全額10億2800万円が免除される。

(贈与税が課税されない条件をクリアできず、相続税法第66条4項の規定により医療法人に贈与税が課税された場合)
・医療法人に対して課税される贈与税額 10億9540万円

平成26年度税制改正により創設された医療法人の出資持分に対する相続税・贈与税の納税猶予制度は、医療法人の後継者である長男が払うべき相続税の10億2800万円が免除されるにすぎません。
一方、医療法人に対して贈与税10億9540万円が課税されてしまいます。
長男が相続税として払うのか、あるいは医療法人が贈与税として払うのかの違うだけで、結局のところ相続税に相当する税額を支払う状況は何ら変わりません。

 

【医療法人に贈与税が課税されない条件は厳しくほとんどの医療法人がクリアできない】
贈与税が課税されないためには次の5つの条件をクリアしなければなりません。
(1)医療法人の組織運営が適正であること
(2)医療法人の役員の総数のうち、親族が1/3以下であること
(3)医療法人の関係者に対して特別な利益の供与をしていないこと
(4)医療法人が解散した場合に、残余財産の帰属先が国・地方公共団体・公益法人に限定されていること
(5)法令違反など公益に反する事実がないこと

これらの条件は特定医療法人や社会医療法人に移行する場合の条件と同じくらい厳しいものですので、贈与税が課税されない条件をクリアできるのであれば、既に特定医療法人や社会医療法人に移行していることでしょう。

出資持分あり医療法人から出資持分なし医療法人へ移行したいが、贈与税負担が重すぎて身動きが取れない医療法人も数多く存在すると思います。
この贈与税課税の問題を解決しない限り、出資持分なし医療法人への移行は進まないことでしょう。

 

【相続税対策参考ブログ】
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