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2016/11/30
医療法人の相続税対策、退職金支給の税務リスク

先日、相続税対策のご相談があったお客様にお会いしてきました。

お客様は医療法人とそれに関連するMS法人を経営されており、医療法人の出資持分とMS法人の株価が高額になりすぎて困っているとのことでした。
お客様の課題は次の2点でした。
・相続税対策をどのようにするべきか
・医療法人とMS法人の承継をどのようにするべきか

医療法人には顧問税理士がおられますが相続税のことはあまりご存じでないとのことで、相続税対策や医療法人の承継についての助言が期待できないとのことでした。
そこで、銀行から医療法人の相続について詳しい税理士を紹介されたものの、彼らを信用していいのか不安に感じたそうです。
そんなとき、税理士長嶋のホームページをご覧になりご連絡をいただきました。

 

 

【医療法人の出資持分の評価引き下げ対策として退職金の支給を提案された】
お客様から詳しいお話を伺うと次のようなことでした。
・医療法人はお客様のお父様が30年ほど前に創業された
・医療法人の出資持分の評価額は、出資当時の100倍以上に膨れ上がっている
・顧問税理士から相続税についての助言が期待できないため、銀行から医療法人の相続に詳しい税理士を紹介してもらった

医療法人の相続に詳しい税理士からは次のような提案があったそうです。
・出資持分の評価引き下げ対策として、理事長に退職金を支給する
・退職後も役員報酬を受け取ることができ、役員報酬を現在の半分にすれば問題ない

一般的な話として、医療法人の出資持分の評価引き下げ対策として代表的なものが、理事長に退職金を支給することです。
確かに机上の計算では出資持分の評価を引き下げることができるかもしれませんが、実現できなければそれは単なる絵に描いた餅。
お客様のケースにおいて、医療法人の相続に詳しい税理士の提案は実現不可能であると理解するのに、税理士長嶋はそう多くの時間を必要とはしませんでした。

 

 

【理事長に退職金を支給することに税務上問題はないのか?】

お客様とのお話を進めていく中で、税理士長嶋が疑問に感じたことは、そもそもの話として理事長は退職することを望んでおられるのか?ということでした。
理事長を退職することについて、お客様はどのようなお考えをされているのかをお客様に伺ったところ、次のようにお考えでした。
・理事長を退いたとしても、これまでと同じく現場で診療を続けたい
・そもそもの話として、お客様自身が現場にいないと高度な医療を提供できない


お客様はこれまでと変わらず現場で医療に携わりたいという希望をお持ちでした。
また、お客様がいないと手術などの高度な医療を提供できず、医療法人の運営に支障を来す状況でした。

このような状況で理事長を退職して退職金を支給することに税務上問題はないのでしょうか?

 

 

【役員の分掌変更による退職金の支給とは?】
医療法人の相続に詳しい税理士が提案したのは、役員の分掌変更による退職金の支給です。

役員の権限や職責の変更があったことを理由に役員退職金を支給した場合に、それが実質的に退職したと同じであるときは、その退職金が適正額であれば医療法人の経費にすることができます。
医療法人の理事長を退職し、理事として医療法人に留まったとしても役員退職金を支給することができるため、医療法人の出資持分評価を下げることを目的に利用されることがあります。

このような場合において支給された退職金が税務上どのように取り扱われるかについては、法人税法基本通達 9-2-32 に定められています。
この通達の要件を形式的にクリアすることは容易であるため、安易に支給した分掌変更による役員退職金がその後の税務調査で否認されている事例が多々あり、裁判にまでなっている事例も少なくありません。
そのため、このような事情により退職金を支給する場合は、税務上のリスクを検討する必要があります。

 

(法人税法基本通達 9-2-32)
法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。
(1) 常勤役員が非常勤役員になったこと。
(2) 取締役が監査役になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。

 

法人税法基本通達 9-2-32において、一応の退職事例が3つ示されています。
この通達はあくまでも退職の判断基準の例示と考えるべきであり、税務リスクを回避するには実質的に退職している状況を国税に証明する必要があるでしょう。

いずれのケースにおいても、その法人の経営上主要な地位を占めている者を除外している点に注目すべきで、通達だけに頼って税務の解釈をすることは大変危険な行為であると考えます。

 

 

【役員の分掌変更による退職金が国税から否認されるとトリプルパンチ】
役員の分掌変更により支給された退職金について、実質的に退職していないと国税が判断した場合には、次のように税負担が重くなることに注意が必要です。

(医療法人での税負担)
(1)法人税の課税
支給した退職金は理事長に対する賞与とされ、医療法人において経費とはならず、法人税や延滞税などが課税されます。

(2)源泉所得税の課税
支給した退職金は理事長に対する給与所得とされ、所得税の源泉徴収が不足し、延滞税などが課税されます。

 

(理事長の税負担)
(3)所得税の課税
受け取った退職金は退職所得ではなく給与所得となるため、退職所得控除を受けられず、課税所得を1/2にする優遇も受けられません。
その結果、所得税の負担が大きくなります。

 

最悪な場合、上記のように医療法人・理事長に対してトリプルパンチの税負担を受けるため、役員の分掌変更により退職金を支給するには相当な覚悟が必要でしょう。

 

 

【退職金を支給しても国税から否認されるだろう】
お客様の医療法人に話を戻すと、お客様のお考えは次の2つでした。
・これまでと変わらず現場で医療に携わりたい
・お客様がいないと手術などの高度な医療を提供できず、医療法人の運営に支障を来す

一般常識的に考えて、退職前と後の職務が同じで、形式的に退職したことになっているだけで、実質的には理事長職を続けていると判断できるでしょう。
医療法人の出資持分の評価を引き下げるためだけに、形式上退職金を支給したと国税から指摘されても文句は言えないでしょう。

お客様にこのようなお話をさせていただいたところ、お客様は次のようにおっしゃいました。
「退職金の支給はできないですね、そもそも退職したくありませんので・・・」

 

 

【相続税対策参考ブログ】
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・医療法人の相続税対策、出資持分譲渡に難色を示す理事長(2017/01/21)

・医療法人が出資持分の相続税対策に悩む理由(2016/06/22)


・診療報酬改定による医療法人の売却と創業家の相続税対策(2016/03/22)

・医療法人の相続税対策と海外銀行の資金管理運用(2015/02/25)

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