相続税対策ブログ
タワーマンションによる相続税対策が規制されるのは当然だ
このほど、国税庁から全国の国税局に対してタワーマンションを使った相続税対策を監視するように指示が出されました。
税理士長嶋は以前からタワーマンションを使った相続税対策には否定的な立場でしたので、規制されるのは当然のことと受け止めています。
そのため、私どもではタワーマンションを使った相続税対策をお客様に勧めることはしませんでした。
私どもがタワーマンションを使った相続税対策に否定的であった理由は、いずれ税制改正されることは誰が見ても明らかであったためです。
【財産評価基本通達による相続税評価額は便宜上の時価に過ぎない】
相続税の申告における相続財産の評価は、時価で行うことが原則とされています。
ところが、納税者が個別の相続財産について時価を算定することが困難であるとの配慮から、便宜上「財産評価基本通達」により時価を算定してもよいことになっているに過ぎません。
財産評価基本通達において、宅地は路線価方式若しくは倍率方式で、家屋は固定資産税評価額を基準に便宜上の時価である相続税評価額を計算することにしているだけです。
もし、財産評価基本通達により算定した便宜上の時価が不適当であるときは、現実の時価である実勢価格により相続財産を評価することとなっています。
このことが財産評価基本通達第6項において、次のように定められています。
「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」
また、判例(東京地裁平成4年3月11日、東京高裁平成5年1月26日、最高裁平成5年10月28日判決)において、次のようなことが述べられています。
「相続財産の評価においては、財産評価基本通達の定めにより評価することが原則であるが、それによらないことが相当と認められるような「特別な事情」がある場合には、他の合理的な時価の評価方法により評価することを認める。」
相続税を専門とする税理士は、この判例を利用して相続税の申告をすることがあります。
例えば、形がいびつな宅地(不整形地)の相続税評価額を路線価方式で計算する場合です。
不整形地について相続税評価額を計算するときは、路線価を基準として奥行価格補正・間口狭小補正・不整形地補正などを行います。
不整形地の状況によっては、路線価を基準として計算した相続税評価額よりも現実の時価である実勢価格のほうが低いケースがあります。
この場合には、不動産鑑定士による不動産鑑定を行い、この不動産鑑定の結果を時価として相続税の申告を行うことで、相続税を抑えることができる可能性があります。
もちろんのことですが、この不動産鑑定の結果を国税が時価として妥当であると判断した場合にのみ相続税を抑えることができ、妥当でないという判断がなされますと修正申告に応じるなどの対応が必要となります。
【週刊誌にタワーマンションを使った相続税対策が取り上げられた時点でアウト】
例えば、タワーマンションを使った相続税対策のストーリーは次のようなものです。
・タワーマンションの相続税評価額は3000万円
・現実の時価である実勢価格は1億円
・手持ちの現金を使ってタワーマンションを購入すれば相続税評価額を下げられる
・手持ちの現金がなければ、銀行から借り入れをしてタワーマンションを購入すれば相続税の対象となる財産を減らすことができる
つまり、タワーマンションの現実の時価である実勢価格と相続税評価額の差額を利用した相続税対策です。
上記判例のケースでは、相続税評価額よりも現実の時価である実勢価格のほうが低い場合に、現実の時価である実勢価格で相続財産の評価を行い、相続税の申告を行っても良いというものでした。
タワーマンションを使った相続税対策はまさに判例の逆のケースで、路線価や固定資産税評価額を基準として計算した相続税評価額よりも、現実の時価である実勢価格のほうが高いケースです。
財産評価基本通達第6項、そして上記判例から想定されることは、タワーマンションの相続税評価額が不適当であるため、現実の時価である実勢価格により相続財産の評価を行わなければならない。
つまり、国税から否認される可能性が高く、近い将来に税制改正が行われることを視野に入れるべきだったのです。
もっと言えば、週刊誌にタワーマンションを使った相続税対策が取り上げられた時点でアウトです。
常識的に考えてこのような理解をすることが妥当だと思いますが、タワーマンションを使った相続税対策を主導した業者はそうではないようです。
【タワーマンションを使った相続税対策は業者の都合の良い論理だけで成り立っていた】
タワーマンションを使った相続税対策は、次のような人たちが主導して行いました。
(1)銀行
(2)不動産業者
(3)銀行や不動産業者と提携して仕事をもらっている相続税専門税理士
彼らの本音は次のようなことでしょう。
(1)銀行・・・融資ができれば利益になる
(2)不動産業者・・・マンションが販売できれば利益になる
(3)銀行や不動産業者と提携して仕事をもらっている相続税専門税理士・・・銀行や不動産業者の仕事につなげれば顧客を紹介してもらえる
つまり、タワーマンション購入後に税制改正が行われ、タワーマンションを使った相続税対策の効果がゼロになったとしても業者にとっては知ったことではないのでしょう。
国税庁からタワーマンションを使った相続税対策を監視するように指示が出されたことについて報道された新聞記事などでは、不動産業者などが次のようなコメントをしています。
「納税者や不動産業界が混乱するため、国税にはどのような事例が否認されるのか具体例を示してほしい」
税理士長嶋の私見ですが、新聞社などはコメントを求める人間を間違えており、このコメントは完全にタワーマンションを販売する業者側の論理です。
業者はタワーマンションを使った相続税対策を勧誘してきましたので、これが蓋をされようとしていることに対してコメントを求められれば、当然のことながら国税に対する批判しか出てきません。
業者が自身にとって都合の良いように、浅はかな考えで財産評価基本通達を解釈していただけのことであり、お門違いもいいところでしょう。
【日本の相続税対策は構造的に税制改正リスクを常に抱えている】
日本の相続税対策には構造的な欠陥があり、常に税制改正リスクを抱えています。
日本の相続税対策は、銀行・不動産業者・生命保険会社などの業者が節税商品を開発して売り付けることにより行われています。
節税商品に人気が出てくると週刊誌で紹介され、国税は税制を改正して節税方法に蓋をしてきたことは歴史的に誰もが知っています。
タワーマンションを使った相続税対策も例外ではなく、歴史はまたもや繰り返されました。
銀行・不動産業者、そして彼らと提携して仕事をもらっている相続税専門税理士は、日本の相続税対策に根本的な問題点があることをなぜ学習しないのでしょうか。
詳しくは2011年10月14日相続税対策参考ブログ「日本の相続税対策の根本的な問題点」にてご紹介しています。
【目先の損得だけで物事を判断すると不幸になるのはお客様】
タワーマンションを使った相続税対策に蓋がされようとしていますが、銀行や不動産業者などはタワーマンションを売り付けた顧客にどのように説明するつもりなのでしょうか。
顧客の自己責任で逃げるつもりなのでしょうか。
それとも、窓口は紹介した税理士であるため関係ないとでも言うつもりなのでしょうか。
目先の損得だけで物事を判断し実行してしまうと、不幸になるのはお客様だけで、業者は何一つ責任を取ることはないでしょう。
そして、税理士長嶋は不思議に思うことですが、相続税対策を必要とされている方はなぜ相続税対策を業者に相談するのでしょうか?
業者に相談すれば売り付けられるのは当たり前のことではないでしょうか。
私どもは海外を利用して相続税対策を行っているため、実際にご相談をいただくお客様は私どもに対してアグレッシブな印象を持たれている方が多いです。
しかしながら、私どもはとてもコンサバティブな立場をとっているため、危ない橋は決して渡りません。
実際にお客様とお話をすると私どもがあまりにも保守的な考えであるため、驚かれることも多いです。
このようなことから、私どもは最近流行している一般社団法人を活用した相続税対策にも手を出していません。
その理由は、2014年6月1日相続税対策参考ブログ「一般社団法人を活用した相続税対策は効果があるのか?」にてご紹介しています。
【相続税対策参考ブログ】
・相続税対策に不動産の有効活用は本当に効果があったのか?
・相続税対策と称して建築業者から紹介手数料を受け取る銀行(2017/04/25)
・相続税対策にアパートを建てると本当に節税になるのか?(2016/09/27)
・相続税対策と称して認知症患者に借金をさせた銀行(2015/12/30)
・相続税対策の不都合な真実を語らない銀行・不動産業者(2015/09/23)
・相続税対策の相談をなぜ業者にしてしまうのか?(2015/04/28)
・タワーマンションを利用した相続税対策にリスクはないのか?(2014/09/13)
・銀行の手先になっている相続税専門税理士にご注意(2014/07/31)
・相続税対策と称して銀行にいいようにやられた(2014/02/28)
・相続税対策のための借金は銀行に上納することを意味する(2014/02/08)