先日、相続税対策のご相談があったお客様にお会いしてきました。
お客様のお母様が複数の駐車場をお持ちで、相続税対策に悩まれていました。
お客様は銀行に相続税対策を相談され、銀行から次の提案があったそうです。
「駐車場として利用している土地にお母様が借金をして賃貸マンションを建てましょう」
お客様はこれまで相続税対策は何一つしてこなかったそうで、借金はありませんでした。
お客様は銀行の提案を受け入れ、このたび初めてお母様が借金をして賃貸マンションを建設され、この賃貸マンションは税理士長嶋がお客様とお会いした数ヶ月前に完成したそうです。
一つ目の賃貸マンションが完成したこともあり、銀行から次のようなお話があったそうです。
「他の駐車場として利用している土地にも賃貸マンションを建てて相続税対策をどんどん進めていきましょう」
相続税対策のためとはいえ、借金が芋づる式に増えていくのではないか?という心配をお客様はされていました。
お客様は相続税対策に借金をする以外の方法はないのか?を探されていたときに、税理士長嶋のホームページをご覧になりご連絡をいただきました。
【認知症のお母様に相続税対策として借金をさせて賃貸マンションを建てさせた銀行】
お客様から詳しいお話を伺うと次のようなことでした。
・お客様の顧問税理士は相続税に詳しくないため、相続税対策の助言をしてくれない
・銀行から借金をして賃貸マンションを初めて建てたが、銀行の言うとおりにしているとどこまで借金が増えるのかわからない
・銀行から紹介された税理士を信用していいのか疑問もある
・お客様のお母様は認知症であるため、今後どのようにして相続税対策を進めていけばよいのかわからない
お客様とお話をする中で、お母様が認知症であることがわかりました。
そこで、税理士長嶋はお客様に次の質問をしてみました。
・お母様はいつ頃から認知症の症状があるのか
・銀行はお母様が認知症であることを知っているのか
・銀行から紹介された税理士から認知症について何か説明はあったのか
・後見人は付けていないのか
お客様からは次のような言葉が返ってきました。
・お母様は3年ほど前から認知症の症状が出ている
・お母様の主治医からもハッキリと認知症と言われており、診断書にも「認知症」と明記されている
・銀行もお母様が認知症であることを知っている
・銀行から紹介された税理士からは認知症について何も説明はなかった
・後見人は付けていない
銀行はお母様が認知症であることを知っている、驚くべき事実が明らかとなりました。
賃貸マンションの建設が始まったのは1年ほど前、完成したのが数ヶ月前ですので、銀行が相続税対策を勧めた時点においては既にお母様には認知症の症状が出ていたことになります。
【認知症になってからの相続税対策は無効となる】
認知症になってから行われた次のような行為は無効になる可能性がありますので注意が必要です。
・不動産の売買
・遺言書を作成する
・節税をする
・借金をする
認知症になるということは判断能力が低下するため、ご自身の財産管理ができなくなります。
その結果、上記のような契約ができなくなります。
相続税対策も例外ではなく、認知症が進行すると基本的には相続税対策はできなくなると考えたほうが賢明です。
では、なぜお客様のお母様は認知症であるにもかかわらず、銀行とローン契約ができたのでしょうか。
また、不動産業者と賃貸マンションの建築契約ができたのでしょうか。
お客様のお話では、銀行とお母様との間で次のやり取りがあったそうです。
銀行員:借金をして賃貸マンションを建ててもよろしいですね?
お母様:はい
【相続税対策についてのコンプライアンスの問題】
ここで、お母様自身が借金をすること、賃貸マンションを建てることについて理解しているのかという問題が出てきます。
銀行は過去において、高齢者に対して投資信託を売り付けたことで訴訟になるトラブルが多発し、コンプライアンスを徹底するように金融庁から指導を受けています。
今回のケースでは、銀行が売り付けた商品が投資信託なのか借金なのかの違いだけで、根本的な部分は同じです。
結論から申し上げると、投資信託はトラブルが表面化しましたが、借金をさせて賃貸マンションを建てさせる相続税対策のトラブルは「今のところ」表面化しないでしょう。
その理由は、
(投資信託)
市場価格が下落することで「損」が出るようなことになれば家族は不満を抱き、銀行に文句を言う。
(借金をして賃貸マンションを建設する相続税対策)
家族にとって相続税対策は相続税が減るという「得」の効果があるため、家族は満足し銀行に感謝をする。
つまり、家族にとって「損」になればトラブルが表面化し、「得」になれば認知症であったことは表面化しないという図式が浮かび上がります。
お母様が認知症の状況において、家族がとった相続税対策は本当に問題がないのでしょうか?
結論から申し上げると、税務署がこの相続税対策を認めない可能性があり、税務署が相続税対策を認めないとなると、家族が期待した相続税対策の効果が期待できません。
つまり、家族にとって「得」になると思っていた相続税対策が税務署によって否定されるようなことになれば家族は不満を抱くことになり、ここでトラブルが表面化するでしょう。
このトラブルが表面化するのは、実際に相続があったときです。
現在相続税対策を検討している方に相続があるのは数年後以降になるでしょうから、その頃にこのトラブルが表面化することになります。
このような理由から、借金をさせて賃貸マンションを建てさせる相続税対策のトラブルは「今のところ」表面化しないことになります。
【認知症の症状が出ていれば税務署は相続税対策を認めない可能性がある】
税務署が借金をして賃貸マンションを建築する相続税対策を認めない、これはどのような意味なのでしょうか。
税務署は相続税対策を行った人が誰なのか?を厳しく見ます。
お母様がご自身で判断して借金をして賃貸マンションを建築することに合意した相続税対策なのか?ということです。
認知症である、すなわち「判断能力が低下し、自分で財産管理ができない」という前提ですので、税務署が疑うのは当たり前のことです。
もし、お母様がご自身の判断で相続税対策を行ったのではないと税務署が判断した場合。
それは相続人であるご家族が行った相続税対策であるため、借金をして賃貸マンションを建設する相続税対策を税務署は認めません。
税務署が相続税対策を認めなければ、相続税の節税効果はゼロ、残った借金だけを返済していく可能性があることを覚悟しなければなりません。
相続税対策になるから借金をするのであって、相続税の節税効果がゼロになるのであれば、誰も好き好んで借金はしないでしょう。
ご相談があったお客様の場合、相続税の税務調査を担当するのは税務署ではなく国税局です。
大口資産家ほどこのリスクが高くなりますので、より慎重な対応が求められます。
そのため、この事実は確実にお客様にお伝えするべきものです。
しかしながら、銀行・不動産業者・銀行から紹介される税理士は、この事実を伝えようとはしなかった。
彼らは「不都合な真実」を隠さなければならないのです。
【銀行・不動産業者・税理士などの業者は不都合な真実を明らかにしない】
銀行・不動産業者・銀行から紹介される税理士にとっての「不都合な真実」とは、本当のことを顧客に伝えてしまうと「借金をしてくれない・賃貸マンションを建ててくれない」、つまり自分たちの仕事にならない重大な事実のことです。
彼らの仕事は、
・借金させること
・賃貸マンションを建てさせること
・税理士は銀行や不動産業者の仕事になるように顧客を誘導すること
です。
繰り返しになりますが、認知症の症状が出ていれば税務署は相続税対策を認めない可能性があります。
この「不都合な真実」について、ご家族が納得されそれでも相続税対策をされたいというご希望があるのであれば、ご家族の判断を尊重します。
ご家族が相続税の節税効果がゼロになる可能性があるリスクを背負うことを覚悟し、そのリスクに挑戦するのであれば誰も文句はいいません。
ところが、このような事実を説明もせずに借金をさせて賃貸マンションを建てさせたとなると、銀行・不動産業者・銀行から紹介された税理士は説明責任が問われるでしょう。
その結果、訴訟になるのは目に見えています。
この問題はこれから数年後以降に表面化するものですが、問題が表面化した時には銀行の担当者は転勤をしているため支店にいません。
不動産業界は異動が激しい業界ですので、不動産業者の担当者も退職している可能性さえあります。
銀行・不動産業者から紹介された税理士は、窓口は銀行・不動産業者であるとの理由で、逃げ道を作るかもしれません。
税務署が相続税対策を否定した場合には、いったい誰が責任を取ってくれるのでしょうか。
日本人の中には「銀行は悪いようにはしないだろう」という何の根拠もない先入観があります。
銀行・不動産業者・税理士はみんなグルになって借金をさせて賃貸マンションを建てさせていることを十分に理解するべきです。
借金をさせる・賃貸マンションを建てさせる「売る側(セールス)」の論理として、その後の相続税対策がうまくいくかどうかは関係のないことなのです。
【相続税対策参考ブログ】
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