海外駐在の日本企業社員向けに保険仲介などを行うウェルビーマーケティングジャパン(以下「ウェルビー社」と言います。)がタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立する手口で悪質に所得隠しを行ったとして、国税局から10億円超の申告漏れを指摘され4億円超の追徴課税を受けたようです。
誰がこんな子供じみた所得隠しを指南したのか、まったくお話になりません。
タックスヘイブンや香港を利用すれば簡単に所得隠しができると本気で思っているところが実に残念な人たちです。
(読売新聞:2015年5月8日)
所得隠し11億円、タックスヘイブンに会社作り
海外駐在の日本企業社員向けに保険仲介などを行う「ウェルビーマーケティングジャパン」(東京都台東区)が、東京国税局から2012年11月期までの7年間で計約11億円の所得隠しを指摘されていたことが、関係者の話でわかった。
同社は、租税回避地(タックスヘイブン)の英領バージン諸島に同じ社名の会社を設立し、この会社名義で香港の銀行に口座を開設。取引先の大手損保に振り込ませた業務委託料を申告から除外していた。
同国税局は悪質な所得隠しだとして、ウェルビー社に重加算税を含む法人税4億数千万円を追徴課税。
同社は修正申告し、納付も済ませたとみられる。
関係者によると、ウェルビー社は、中国などに駐在する日本企業の社員らに現地の医療機関を紹介したり、保険商品を仲介したりするサービスを提供。
1997年頃からは、複数の大手損保と業務委託契約を結び、各損保の顧客企業の社員らにも同様のサービスを提供するようになった。
一方、ウェルビー社は英領バージン諸島に同じ社名のペーパーカンパニーを設立。
取引先の大手損保に対し、このペーパーカンパニー名義で香港の銀行に開いた口座を「うちの口座だ」と偽り、業務委託料を振り込ませていたという。
英領バージン諸島の会社には法人税がかからない。
また、香港では地域外の企業活動で発生した所得には課税されないルールがある。
東京国税局は、ウェルビー社に、タックスヘイブンの法人が香港外の活動で所得を得たと装うことで、どこの国からも課税されないようにする意図があったと判断したとみられる。
【申告漏れの中でも悪質なものが「所得隠し」】
国税はタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立することによる所得隠しは悪質だと判断し、7年間遡って追徴課税を行いました。
国税の時効は国税通則法において、原則として法定納期限から5年間と定められています。
ただし、偽りその他不正の行為により免れた場合は、時効は原則として法定納期限から2年間は進行しないため、実質的な時効は7年間となります。
偽りその他不正の行為とは、最高裁の判例で次のように述べられています。
「真実の所得を隠ぺいし、それが課税の対象となることを回避するため、所得金額をことさらに過小に記載した内容虚偽の確定申告書を提出する行為」
脱税は刑事罰を伴う犯罪ですが、このケースでは起訴されていないために脱税ではなく「申告漏れ」という扱いとなります。
申告漏れの中でも悪質であると判断されたために「所得隠し」という言葉が使われています。
脱税と所得隠しは紙一重であることから、所得隠しという言葉は実にマイルドな表現だと思います。
【タックスヘイブンを利用して所得隠しをする人は中途半端に海外を知っている人】
私どもの過去の経験では、安易にタックスヘイブンを利用して所得隠しをしようとする人は、中途半端に海外を知っている人たちで、特に外資系の銀行・証券・保険などの金融業界の人たちが多いです。
ご自身が金融業界で仕事をしているために、海外のことを知っていると思いこんでいるため、このような金融業界の人たちから次のような声を聞くことが多いです。
・タックスヘイブンを使えば問題ない
・海外の銀行を使えばわからない
彼らの周りには国際税務に詳しいと称する会計士・税理士がいるために聞けば教えてくれますから「海外のことを知っている」とより勘違いさせるのでしょう。
はっきりと申し上げますが、タックスヘイブンや海外銀行が通用したのは20年も前の話です。
時代は変わっているにもかかわらず、いまだに20年前のことが通用すると思っている残念な人たちが「中途半端に海外を知っている人」です。
これは、金融業界の周りにいる国際税務に詳しいと称する会計士・税理士も残念な人たちであるとも言えます。
私どもは、これまでに本当に海外のことを知っている日本の金融業界の人に出会ったことがありません。
私どもがお会いした本当に海外のことを知っている日本の弁護士・会計士・税理士は、たったお一人だけです。
この事例から学ぶべきことは、中途半端な知識で節税をしても痛い目に遭うということです。
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