相続税の基礎控除が引き下げられることが決まってから、世の中では不動産を活用した相続税対策が「なぜか」流行しています。
銀行や不動産業者から「不動産を活用した相続税対策を提案させてほしい」という営業電話が本当に多く、大変迷惑をしています。
はっきりと申し上げますが、税理士長嶋は不動産で相続税対策を行うことはまったく意味がないと考えています。
世の中では不動産を活用した相続税対策が流行していますが、不思議なことに相続税対策に不動産を活用することのリスクを語ろうとする人間が誰ひとりとしていません。
メリットになることがあればその裏返しにデメリットになることがあるはずですが、不動産を活用した相続税対策について誰も異議を唱えないことが非常に違和感を覚えます。
不動産を活用した相続税対策は30年前の1980年代にも流行しましたが、当時から時代が変わってしまったにも関わらず、なぜ誰もこの事実を指摘しようとしないのでしょうか。
結論から申し上げると、時代はもう変わってしまったのです。
古き良き時代の相続税対策にいつまでしがみついているのでしょうか。
相続税対策を検討する場合、時代背景の構造的変化を十分に理解すべきだと思います。
そうすれば、相続税対策において判断ミスを少なくすることができると思います。
【1980年代当時、相続税対策に不動産が活用された理由】
1980年代当時、どのような理由で相続税対策に不動産が活用されたのか、歴史的事実を振り返ってみることはとても重要なことだと思います。
1980年代当時、日本人にとって「税金」の問題は今以上に重要な位置づけでした。
所得税の最高税率は70%、住民税と合わせた所得に対する税率は最高88%という時代でした。
相続税の税率についても、10億円超の財産に対して70%が課税されていたため、資産家にとっての税金の受け止め方は国民の義務というよりは懲罰的な意味合いが強かったのかもしれません。
このような時代背景においては、資産家の財産を守るためには相続税の問題をどのように解決するのか、が最も重要だったことがわかります。
そのため、資産運用よりも相続税対策をいかに行うのかが大きなテーマとなりました。
そこで、銀行は次の2つの理由から不動産に目を付けました。
(1)不動産を購入すれば、相続税評価額を引き下げられる
(2)不動産の購入資金を融資することができる
銀行にとって、相続税対策は不動産と資金融資をセット販売することができるため、おいしいビジネスになりました。
【1980年代当時、借金返済の資金繰りの問題は議論されなかった】
借金をして不動産を購入する、つまり相続税対策をキッカケとして不動産投資をすることになります。
不動産投資ですので、不動産収入から借金の返済ができるのかどうかが気になるのではないでしょうか。
ところが、1980年代当時、このような議論は一切行われていません。
その理由は、次のようなストーリーが作り上げられていたためです。
「借金の返済が毎月の不動産収入でできなかったとしても、最終的には土地の売却益でカバーすることができます」
日本はバブル経済期であり、高度成長と人口増を背景に土地の値段は右肩上がりでした。
そのため、土地の売却益で借金は完済できるという前提が成り立つ時代だったのです。
【相続税対策に不動産を活用する時代は終わった】
ここで、バブル経済崩壊後の日本経済はどのような状況になったのか。
そして、今後の日本経済はどのように推移していくのか。
少なくとも次の2つのことが言えるのではないでしょうか。
(1)バブル経済時のような右肩上がりの経済成長は望めない
(2)地価は上昇し続けるという土地神話は崩壊した
このような日本経済の構造的変化が起きている状況では、1980年代に作り上げられていたストーリーの前提条件が成り立ちません。
残念ながら、時代は変わっているのです。
いつまでも古き良き時代の相続税対策にしがみついている場合ではありません。
【相続税対策参考ブログ】
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・相続税対策の相談をなぜ業者にしてしまうのか?(2015/04/28)
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