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2016/01/17
自社株の相続税対策に一般社団法人を活用する危険性

先日、相続税対策のご相談があったお客様にお会いしてきました。

お客様は会社経営をされており、自社株の相続税対策を検討されていました。
自社株対策について顧問税理士から助言が得られないため、銀行や事業承継コンサルタントに自社株対策を相談されたそうです。
銀行や事業承継コンサルタントからは自社株対策として一般社団法人の活用を提案されたそうです。

自社株対策に一般社団法人を活用することについてデメリットはないのか?を調べられていたときに税理士長嶋のホームページをご覧になりご連絡をいただきました。

 

(2017年11月21日追記)
2017年11月1日に開催された政府税制調査会において「一般社団法人を利用した節税スキームには課税上の問題がある」と警鐘が鳴らされ、一般社団法人について税制改正の可能性が出てきました。
・一般社団法人を利用した節税スキームに警鐘、課税上問題あり(2017/11/21)

 

(2017年12月6日追記)
2017年11月30日の日本経済新聞において、一般社団法人を利用した悪質な節税が横行しているとして、平成30年度税制改正において節税策が封じ込められると報じられました。
・一般社団法人節税スキームの税制改正、銀行税理士の責任問題へ(2017/12/06)

 

 

【自社株対策に一般社団法人を活用することを勧められた】
お客様から詳しいお話を伺うと次のようなことでした。
・既に自社株対策として持株会社を設立し、事業会社の株は持株会社が100%所有
・持株会社の株はお客様が100%所有している
・事業会社の事業をさらに拡大するため、海外進出の準備を進めている
・海外事業が回り始めると利益が見込まれ、将来的に事業会社の株価は大幅に上昇する
・海外事業展開前の今が自社株の株価の底値であるため、今のうちに対策をしておきたい
・現在でも事業会社に利益が蓄積されており、持株会社の株価も既に高額である
・銀行や事業承継コンサルタントから一般社団法人の活用の提案を受けた
・銀行などはメリットしか説明してくれず、一般社団法人のデメリットを知りたかった
・税理士長嶋のホームページをご覧になり、一般社団法人の考え方に共感した

一般社団法人や一般財団法人には持分がないため、一般社団法人や一般財団法人に財産を移転すると相続税や贈与税が未来永劫かからない。
このような摩訶不思議な話が世間ではなぜか流行しており、一般社団法人が相続税対策に活用されています。


そんな中、お客様はそんなことがまかり通るのか?と疑問を持たれていました。
一般常識的な感覚からしても、何かがおかしいと感じるのは当然のことです。
そこで、下記のようなことを簡単にお客様にご説明いたしました。

 

 

【一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の立法趣旨】
相続税対策に一般社団法人を活用するのであれば、まず一般社団法人の立法趣旨を確認する必要があるでしょう。
平成18年3月29日に行われた衆議院行政改革に関する特別委員会における審議に先立ち、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の立法趣旨が次のように述べられています。

「現行の公益法人制度については、主務官庁の許可主義のもと、法人格の取得と公益性の判断や税制上の優遇措置が一体となっているため、法人設立が簡便でなく、また公益性の判断基準が不明確であるなど、さまざまな批判、指摘がされてまいりました。
一方で、内外の社会経済情勢の変化に伴い、民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施を促進して、活力ある社会を実現することが重要となっております。
さらに、官から民への流れの中で、こうした民間の団体の発展を推進することは、簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の実現にも不可欠なものであります。

そこで、現行の公益法人制度を改め、法人格の取得と公益性の判断を分離することとし、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律案は、剰余金の分配を目的としない社団及び財団について、その行う事業の公益性の有無にかかわらず、準則主義により簡便に法人格を取得することができる一般的な法人制度を設けようとするものであります。 」

 

立法趣旨を簡単に整理しますと「公益性・公共性が高い民間の団体が法人として活動するには手続き面で面倒であったため、法人として活動できるように法整備を行う」ということになろうかと思います。
日常生活において身近に感じられるこのような民間の団体は次のようなものがあります。
・町内会
・PTA
・同窓会
・OB会
・マンション管理組合

このような団体は、人が集まることで成り立つ団体(社団)であるため、法人ではありません。

例えば、これらの団体が銀行口座を開設する場合には、団体の名前で口座を開設することができないため、団体の代表者の名前で口座を開設することになります。
また、団体が不動産を購入し所有権の登記を行う場合でも、同様に団体の代表者の名前で所有権の登記を行うこととなります。
不幸なことに団体の代表者に相続があった場合には、団体の預貯金や不動産であっても代表者の名義になっているため、代表者の相続財産となってしまいます。

団体の運営にあたってこのような不都合を回避するために、人が集まることで成り立つ団体(社団)を法人として活動できるよう支援するために法整備がなされ、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律として平成20年12月1日に施行され、これらの団体は一般社団法人として活動することができるようになりました。

 

 

【なぜ一般社団法人には持分がないのか?】
一般社団法人には持分がなく、株式会社には持分がありますが、なぜ一般社団法人には持分がないのでしょうか?
一般社団法人に持分がない理由は、両者を比較することで見えてくるのではないでしょうか。

株式会社を設立するときは、会社を設立しようとする者が出資をしなければなりません。
この出資をした者が株主となり、会社の所有者となります。
会社の株式は財産性を有しているため換金することができます。

一方で、一般社団法人を設立するときには、出資をする必要はありません。
その理由は、一般社団法人は「人が集まることで成り立つ団体」であるため、人が集まりさえすれば出資がなくても問題がないのです。
そのために出資(資本金)がありません。

そもそも、町内会やPTAなどの団体に参画する人は、団体のために活動しているのであって、団体の財産を自分の財産にしたいとは思ってもいないでしょう。
世のため人のために存在する団体であり、その目的のために使われる財産であるからこそ、誰のものでもない。
誰のものでもないからこそ、一般社団法人には「持分がない」とされているのではないでしょうか。

 

 

【国税は既に一般社団法人を活用した相続税対策の問題点を指摘している】
国税は既に一般社団法人を活用した相続税対策の問題点を指摘している点に注意しなければならないでしょう。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律が施行されたのは平成20年12月1日ですが、その前年の平成19年7月4日に税務大学校の論文において次のような課税上の問題が既に指摘されています。

 

相続税・贈与税のあり方について-新たな非営利法人制度を素材として-
「このような懸念を払拭するためには、まずは、新たな非営利法人を一律に相続税法第66条の対象に加えた上で別途、租税回避の問題のない法人を適用除外とするなど、より踏み込んだ見直しが必要となる。
しかし、仮にこのような措置を講じたとしても、執行上対応しきれるかどうかといった問題や、営利法人と一般社団法人における剰余金配当(分配)請求権の取扱いに見られるような両者の均一化が進む中で、新たな非営利法人に対してのみこのような措置を講ずることの有効な理由が見出し難くなる状況が今後生ずることも考えられ、いずれ、このような状況に対応しつつ、無償の財産取得に担税力を見出して課税するという相続税・贈与税の基本的な考え方に立ち返った見直しが必要と考えられる。
例えば、現行の課税方式の下で法人も原則として相続税・贈与税の納税義務者とすることや、被相続人の分割前の遺産全体を課税対象とする遺産課税の要素を多く取り入れること、また、個人が実質的に支配している一般社団法人等については、資産の移転時における相続税・贈与税の課税だけでなく、移転後も個人が実質的に支配している状態が継続していると認められる場合には、その個人に係る相続が発生したときは、当該法人に帰属する資産をその個人の相続財産として相続税の課税対象とすることも視野に入れ、資産の無償・低額譲渡における他の課税関係にも考慮しつつ検討することが必要となる。」

 

この論文はあくまでも執筆者の個人的見解となっていますが、税務大学校が論文として指摘した課税上の問題点について、論文が公表された数年後に論文とまったく同じ内容で税制改正されることが現実に起こっています。
直近では、出国税の導入が平成22年6月29日の論文で検討課題とされ、現実に平成27年度の税制改正において出国税が創設されたことは記憶に新しいところです。

 

 

【一般社団法人と類似する事例が国税不服審判所において否認されている】
一般社団法人を活用した相続税対策に類似する事例が国税不服審判所において現実に否認されていることにも注目すべきでしょう。

請求人が相続により取得した取引相場のない株式は、「同族株主以外の株主等が取得した株式」には該当しないことから、配当還元方式で評価することはできないとした事例(平成23年9月28日裁決)

この事例は簡単に次のような状況でした。
・事業会社の株式を所有するために設立された持株会社である
・持株会社の収入の大部分は事業会社からの配当金である
・持株会社の資産の大部分が事業会社の株式である

この状況は、一般社団法人を持株会社として活用する事例に類似しますので、裁決要旨の一部をご紹介します。
「(1)K社の設立経緯、資産内容、人的・物的実体及び株主総会や取締役会の開催状況からすると、K社の出資者がJ社の経営や意思決定に関心や興味を有していたとは考え難く、
(2)K社の出資者は、いずれもJ社の役員等であり、J社を退社した後は、K社の出資者たる地位を失うことになっていたこと並びにK社の出資者及び出資の譲受人は本件被相続人にその決定権があったものと認められることからすると、K社の出資者がJ社の代表取締役であった本件被相続人の意に沿った対応をすることが容易に認められること
(3)K社は、本件被相続人死亡後開催されたJ社の取締役を選任する重要なJ社の株主総会において、K社が所有しているJ社の株式に係る議決権を、K社の出資者でも役員でもない請求人(本件被相続人の妻)に委任していることからすれば、K社は本件被相続人に代表されるJ社の創業家の強い支配下にあり、K社の出資者は、同社の意思決定を、いずれも、本件被相続人及び請求人に代表されるJ社の創業者一族の意思に委ねていたものと認められるから、K社の株主総会等における議決権の行使についても、J社の創業者一族の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意していた者と認めるのが相当である。

そうすると、請求人は、法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》第6項の規定により、K社の株主総会において全議決権を有し、かつ、K社の唯一の出資者であるとみなされることから、同条第3項により、K社を支配していることとなって、同条第2項により、K社は請求人と特殊関係にある法人に該当するので、請求人の同族関係者に該当することとなる。」

 

 

【それでも相続税対策に一般社団法人を活用しますか?】
一般社団法人や一般財団法人には持分がないため、一般社団法人や一般財団法人に財産を移転すると相続税や贈与税が未来永劫かからない。
これを聞いたときに、一般常識的に考えて何かが「おかしい」と感じなかった方は、自身にとって都合のよい情報だけを都合のよいように解釈していないか確認されることをお勧めします。

税法における課税関係の解釈は、相続税・贈与税に限らず、表面上の形式が整っている・表面上の条文の要件を満たしていることなどだけで解釈するのではなく、その実態により解釈されます。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の立法趣旨から読み取れることは、一般社団法人の財産は誰のものでもないことが前提であるため、一般社団法人の財産を私的に支配する意思があれば、それはもはや立法趣旨から逸脱しており「持分あり」と指摘されても文句は言えないでしょう。
現実として一般社団法人を設立する目的も、相続税対策のために一般社団法人を通じて自身の財産を維持・管理することであるため、それは「持分あり」なのです。

もし、一般社団法人が所有する財産に相続税・贈与税が課税されないケースがあるとすれば、例えば相続税法施行令33条3項に定める次のような条件を満たすことが必要になるでしょう。
・一般社団法人の運営が適正であり、役員のうち親族の占める割合が1/3以下であること
・一般社団法人に関係する者に対して特別の利益を与えないこと
・一般社団法人が解散した場合に残余財産は国などに帰属することが定められていること
・一般社団法人に法令違反がない、仮装隠ぺいなど公益に反する事実がないこと

これらの条件を満たそうと思うと、親族だけで一般社団法人を支配することはできないでしょう。
繰り返しになりますが、親族だけで一般社団法人を支配できないからこそ、誰のものでもない。
このような状況になってはじめて「持分なし」と言えるのではないでしょうか。

それでも相続税対策に一般社団法人を活用しますか?

 

 

【相続税対策参考ブログ】
・公益財団法人を活用した相続税対策にリスクはないのか?(2017/07/10)

・相続税対策に海外財団法人は本当に効果があるのか?(2017/06/01)

・自社株の相続税対策、役員報酬の増額は資金効率が悪すぎる(2016/12/07)

・会社経営者の相続税対策が困難を極める3つの理由(2016/04/04)

・一般社団法人を活用した相続税対策は効果があるのか?(2014/06/01)

・自社株の相続税対策に限界を感じていませんか?

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・自社株の相続税対策に会社分割をしてはいけない会社がある

・自社株の相続税対策に生前贈与は効果があるのか?


・自社株の相続税対策に持株会社は効果があるのか?


・自社株の相続税対策としての自社株買いにデメリットはないのか?

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