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2018/05/25
相続人が仮想通貨の秘密鍵を知らなくても仮想通貨に相続税課税

ビットコインを代表とする仮想通貨に対する税制について、国税庁から平成29年12月に「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」が公表され、所得税の課税が明確化されました。
相続税の課税についてはこれまで国税庁から見解は示されていませんでしたが、平成30年3月23日の参議院財政金融委員会において、仮想通貨に対して相続税が課税されることが明らかとなりました。

仮想通貨に対して相続税が課税されるのは十分に理解しますが、ここで大きな問題となるのが相続人が仮想通貨の「秘密鍵」を知らないケースです。
仮想通貨の「秘密鍵」を知らなければ、相続人は仮想通貨を法定通貨に交換することができず、仮想通貨を使って物を購入することもできません。
相続人が仮想通貨の「秘密鍵」を知らないために仮想通貨を使えない状態でも、国税庁は仮想通貨に対して相続税を課税するとの見解を示したことについて、国民の理解が得られるかどうかが大きな課題でしょう。

税理士長嶋の私見を交えてご紹介していきたいと思います。




【仮想通貨には財産的な価値があるため相続税が課税される】
平成28年6月3日に公布された改正資金決済法において、仮想通貨は次のように定義されました。

「不特定多数を相手方として物品の購入やサービスの提供などを受ける場合に使用できる財産的価値であり、電子情報処理を用いて移転することができる。」


平成30年3月23日の参議院財政金融委員会において、国税庁次長兼国税長官心得の藤井健志氏は、仮想通貨に対して相続税が課税されるとの見解を示し、次の答弁を行いました。
・相続税法では、個人が金銭に見積もることができる経済的価値のある財産を相続又は遺贈により取得した場合には、相続税の対象とされている。
・仮想通貨は資金決済法において財産的価値があると定められていることから、仮想通貨にも相続税が課税される。



(税理士長嶋の私見)
仮想通貨に財産価値があることは明白であるため、仮想通貨に相続税が課税されることについて異論はありません。

参考までに、平成27年東京地裁判決において、ビットコインについて法的な所有権が否定されています。
この判決の是非について今後も争点になる余地はあるとは思いますが、仮想通貨は債権的な権利として金銭に見積もることができる財産であるとして、相続税が課税されることに異論はありません。




【相続人が仮想通貨の秘密鍵を知らなくても相続税が課税される】
仮想通貨の取引を行うには、まずは仮想通貨取引所にて口座を開設し、その口座に法定通貨を入金して仮想通貨に交換することが一般的でしょう。
取引の際には「秘密鍵」が必要となりますが、もし「秘密鍵」を忘れたり紛失したりすれば、仮想通貨の取引ができませんので、事実上「秘密鍵」を知っている者がその仮想通貨を所有していることの証明となります。
相続の場面に置き換えてみると、相続人が「秘密鍵」を知らなければ仮想通貨を相続しても実際には仮想通貨の取引ができないため、法定通貨に換金することもできません。

この点について、国税庁の藤井氏は一般論としたうえで、次のような答弁を行いました。
・仮想通貨を相続したのであるから、相続人が仮想通貨のパスワードを知らない場合でも、その仮想通貨は相続税の対象となる
・相続人が仮想通貨のパスワードを知っているかどうかは相続人にしかわからないことであり、それを税務当局として真偽を判断することは難しい
・相続人が仮想通貨のパスワードを知っている・知らないの事情により、仮想通貨が相続税の対象になる・ならないの結果が異なれば、課税公平の観点から問題がある



(税理士長嶋の私見)
国税庁の藤井氏は「財産的価値がある仮想通貨を相続したから相続税の対象になる」との見解ですが、少々無理があると感じます。
その理由は、国税庁のタックスアンサーにおいて「相続税がかかる財産」は次のように解説されているためです。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4105.htm

「相続税は原則として、死亡した人の財産を相続や遺贈(死因贈与を含みます。)によって取得した場合に、その取得した財産にかかります。この場合の財産とは、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいいます。」

要約すると「相続税は、相続により取得した財産にかかる」となります。
国税庁の藤井氏は相続人が仮想通貨を「相続」したことだけに注目して答弁していますが、「取得」することについて一切触れていません。

ここで「取得」という言葉を辞書で調べてみると次のように書かれています。
「手に入れること、自分のものとすること」

手に入れる・自分のものにする、つまり自由に使用・収益・処分できる所有権のような形態で相続人自身がその財産をコントロールできなければ取得したことにはならないのです。
相続人が仮想通貨の秘密鍵を知らない場合、相続人は相続する権利はあっても取得していませんので、相続税はかからないという解釈になるのが自然でしょう。
「相続=取得」ではありませんので、この点をどのようにクリアするのかが課題となるでしょう。

仮想通貨の秘密鍵を相続人が知らない場合でも相続税を課税するのであれば、例えば、税務署の権限により仮想通貨の秘密鍵を調べる・再設定できるようにして、相続人が自由に仮想通貨を使える状態にしてくれるのでしたら異論はまったくありません。
国税庁の藤井氏が答弁した「相続人が仮想通貨の秘密鍵を知っている・知らないの事情により、仮想通貨が相続税の対象になる・ならないの結果が異なれば、課税公平の観点から問題がある」ことは十分に理解します。
その裏返しも言えることで、「相続人が仮想通貨の秘密鍵を知っている・知らないの事情により、仮想通貨が自由に使える・使えない現実社会における不公平が無視されて、仮想通貨を相続税の対象にすることに問題はないのか」という議論も必要でしょう。

それでも、仮想通貨に相続税を課税するのであれば、一層のこと仮想通貨で相続税の納税を認めるべきだと考えます。
秘密鍵がわからない仮想通貨で相続税の納税ができるのであれば、相続税が課税されても国民は納得するでしょう。
もし税務署が秘密鍵がわからない仮想通貨での相続税の納税を認めないとすると、それは税務署が秘密鍵がわからない仮想通貨の財産的価値を認めていないのと同じことでしょう。
仮想通貨は法定通貨に交換できますので、仮想通貨での納税は間接的に法定通貨で納税することと同じになりますが、これを税務署が認めないとなると、財産的価値がない秘密鍵がわからない仮想通貨に対して相続税を課税するのか?という議論も生まれてくることでしょう。




【仮想通貨に対して相続税の取得費加算の特例は慎重に検討】
相続により取得した土地、建物、株式などを、相続開始日の翌日から3年10ヶ月以内に譲渡した場合には、所得税の譲渡所得を計算する際に、相続税額のうち一定金額を取得費に加算できる制度があります。
これを相続税の取得費加算の特例といいます。

仮想通貨を相続した際に、この相続税の取得費加算の特例の対象になるのかどうかについて、同日の参議院財政金融委員会において、財務省主税局長の星野次彦氏は次のように答弁を行いました。
・土地や株式の譲渡による所得は原則として譲渡所得とされるが、仮想通貨の譲渡による所得は原則として雑所得に該当すること
・仮想通貨に相続税の取得費加算の特例を適用するかどうかは、慎重な検討が必要



(税理士長嶋の私見)
そもそもの話ですが、仮想通貨による所得は「資産の譲渡による所得」ではないからこそ「雑所得」として課税されるという建前です。
財務省の星野氏の答弁の中で「仮想通貨の譲渡による所得」という言葉が出てきていますが、この言葉を使って答弁することは雑所得の課税根拠の建前を否定することになりますので、この答弁は適切ではないでしょう。

相続税の取得費加算の特例制度は「土地、建物、株式などを、一定期間内に譲渡した場合」に適用できますので、仮想通貨による所得は「資産の譲渡による所得ではない」という建前である以上、現行の法制度では適用不可であることはその通りです。
もし相続税の取得費加算の特例を仮想通貨による所得にも適用するのであれば、法改正が必要であるため、慎重な検討が必要であることもその通りです。




【相続税対策参考ブログ
・仮想通貨の節税対策の専門税理士は本当にいるのか?(2018/04/24)

・スイス銀行口座開設仲介業者、仮想通貨の節税と称した脱税まがいの勧誘(2018/03/17)

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