相続税対策ブログ
日本ウェルス銀行、香港撤退理由はデモ・コロナではない
香港で主に日本人向けに個人資産運用を手掛ける日本ウェルス銀行が香港での銀行業務終了を決めました。
日本ウェルス銀行について、私どもでは過去複数のご相談事例があり、ご相談内容をお聞きすると「この銀行本当に大丈夫なのか?」と疑問を持つことが多々ありました。
今回の銀行業務終了の新聞報道を読み「やっぱりな」というのが、税理士長嶋の個人的な率直な感想です。
新聞報道によると銀行業務終了の理由は、「2019年の大規模デモと2020年の新型コロナウイルス流行により新規顧客の獲得が難しくなった」とされていますが、税理士長嶋はそのようには思えません。
デモとコロナを隠れ蓑として、元々銀行として経営が苦しかったのではないか?というのが税理士長嶋の個人的な見解です。
また、日本ウェルス銀行が銀行業務終了を決めたことについて、現地香港ではどのように報道されているのか気になりましたので、香港現地のプライベートバンカーに確認しました。
香港現地ではまったくニュースにもなっておらず、日本の新聞は記事ネタに困っているのか?とプライベートバンカーに失笑されるほどでした。
(日本経済新聞:2021年4月9日)
香港の日本ウェルス銀、サービス終了 新生銀など出資
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM076W30X00C21A4000000/
【香港=木原雄士】香港で主に日本人向けに個人資産運用を手掛ける日本ウェルス銀行が今夏にサービスを終了する。
2019年の大規模デモと20年に始まった新型コロナウイルス流行で新規顧客の獲得が難しくなった。
既存の顧客には台湾資本の証券会社、KGI凱基証券(香港)への口座移管を促す。
このほど顧客にサービス終了の方針を伝えた。同行は新生銀行やマネックスグループが出資して設立した。15年に香港当局から銀行免許を取得して営業を始めた。
【某出版社が主催する会員制倶楽部で日本ウェルス銀行を紹介された】
私どもにおいて、過去に日本ウェルス銀行について複数のご相談がありましたが、いずれも某出版社が主催する会員制倶楽部のセミナーに知人に連れられて参加され、日本ウェルス銀行を紹介されたというもの。
ご相談は次のような内容でした。
・そもそも、某出版社は大丈夫なのか?
・そもそも、某出版社の会員制倶楽部は大丈夫なのか?
・日本ウェルス銀行に口座を開設して香港に送金しようとしたが、できなかった。
・日本ウェルス銀行に口座を開設して香港に送金したが、こんな大変な思いをするとは聞いておらず、今後のことを考えると今すぐに解約したい。
この某出版社が主催する会員制倶楽部では他にも複数の投資商品を扱っており、「日本人なら誰もが知るS社のS社長も投資をしている」と勧誘を受けた方もいます。
投資商品の勧誘をするのに有名人の名前を使うのは詐欺にしか思えないのだが大丈夫なのか?という意見をお持ちの方もいました。
その有名人が本当に投資をしているかどうかを確かめる術がなく、不信感につながるのも当たり前の話です。
日本ウェルス銀行の日本での顧客開拓営業はセミナーを中心にしており、この某出版社が主催する会員制倶楽部が中核を担っていたというのが税理士長嶋の印象です。
【香港での銀行業務終了は銀行として経営が苦しかったのでは?】
香港での銀行業務終了はデモ・コロナが理由ではなく、元々銀行として経営が苦しかったのではないか?というのが税理士長嶋の個人的な見解です。
日本ウェルス銀行の創業を整理してみます。
・2015年4月銀行免許取得、日本の「新生銀行」・「マネックス証券を中心とするマネックスグループ」・「東急リバブル」など日本と香港の10社の共同出資による設立。
・2015年9月証券業免許取得、営業開始。
・最低預入額10万米ドル(当時のレートで約1200万円)
・2020年までに預かり資産残高4000億円を目指す
その後、2017年6月に日本経済新聞から次の報道がありました。
・最低預入額10万米ドルを撤廃
・月1万円から積み立て投資ができる新サービスを開始
(日本経済新聞:2017年6月26日)
日本ウェルス銀、少額投資の新サービス アジア駐在員取り込み
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL26HWX_W7A620C1000000/
そして、2021年4月、今回の香港での銀行業務終了の報道です。
2015年10月の営業開始時には最低約1200万円の預け入れができる顧客をターゲットにしていたのが、2年も満たない2017年7月には月1万円の積み立て投資をスタートさせて一般顧客を取り込もうとしており、ここで既に迷走感があります。
私どもにご相談があったお客様は、もちろんのこと全力で日本ウェルス銀行に預け入れるようなことはせず、余裕資金の一部を入れる方ばかりで、お一人数千万円単位の方が多かったです。
今回の新聞報道によると、日本ウェルス銀行の顧客は1000人以上とのこと。
日本ウェルス銀行の預かり資産をどれだけ多く見積もったとしても、顧客2000名×預入額一人1億円=2000億円。
銀行設立時の目標は2020年までに4000億円でしたので、当初目標の半分以下の実績だったのではないでしょうか。
もし仮に銀行手数料を預かり資産の1%とすると、最大でも2000億円×1%=20億円にしかなりません。
この程度の収入でしたら、わざわざ銀行免許を取るまでもなく、投資顧問業・投資助言業や代理店でいいレベルです。
とてもではありませんが、最大20億円の収入では、銀行免許・銀行システム・銀行員の維持は無理です。
【シンガポールのプライベートバンクと同様に金融難民が出てしまった】
日本ウェルス銀行の今後の顧客への対応は次のようなものになるそうです。
・台湾資本の証券会社、KGI凱基証券(香港)への口座移管を促す
・投資商品の売却
・保険代理店の紹介
またしても1000人以上の日本人が海外で金融難民になってしまったことが残念でなりません。
「またしても」・「金融難民」とはどういう意味なのか?
過去に同様のことが香港・シンガポールで起こっており、私どもも複数のご相談に対応した経験があるためです。
2010年頃からHSBCなど海外銀行口座開設ツアーが流行しましたが、それ以前はプライベートバンクではないHSBCなどにも日本人専用窓口の「ジャパンデスク」があり日本語対応していました。
HSBCなど海外銀行口座開設ツアーが流行する少し前に、このジャパンデスクはHSBCでも閉鎖されました。
直近では、2017年にシンガポールのプライベートバンクのジャパンデスクが閉鎖されました。
この当時のことを税理士長嶋のブログ「シンガポールプライベートバンク、ジャパンデスク閉鎖で金融難民続出」にてご紹介をしており、当時のお客様は次のようなご相談をされました。
・シンガポールのプライベートバンクのジャパンデスク代表の日本人がプライベートバンクを退職する前後から、シンガポールのプライベートバンクの潮目が大きく変わり、優秀な日本人バンカーが次々と退職していき、日本人顧客の窓口であるジャパンデスクであるにもかかわらず、日本語が満足に通じなくなった。
・ジャパンデスクのスタッフに資産運用などの相談をしても満足な助言が返ってくることがなくなり、ジャパンデスクには仕事ができないスタッフだけが残ったように感じられる。
・先日、シンガポールのプライベートバンクから一通の手紙が届いたが、どのように対応すればよいかわからない。
・こんな状態では資産管理や資産運用をシンガポールのプライベートバンクに安心して任せることができない。
日本人専用窓口の「ジャパンデスク」がある銀行を選択される前提として、その顧客の希望は間違いなく「日本語対応」。
日本人なのだから母国語の日本語で対応してほしい、税理士長嶋は十分に理解します。
日本ウェルス銀行も同様で、日本語対応を期待する方だけが日本ウェルス銀行に口座を開き、香港現地の人が開くはずがありません。
日本ウェルス銀行が顧客に香港現地の証券会社や保険代理店を紹介して、その顧客が証券会社や保険代理店で投資商品を維持したとしても、今後従来のような日本語でのサポートを受けられるはずがありません。
つまり、前記のシンガポールのプライベートバンクのようにジャパンデスクが閉鎖されたのと同じ状況で、証券会社や保険代理店からは何のサポートも受けられないにもかかわらず、費用だけは請求される。
これでは顧客が資産管理や資産運用について不安になるのも当然で、税理士長嶋は誰にも相談できないこのような状況を「金融難民」と表現しています。
このような不安がある顧客は、投資商品を売却して日本に資金を戻すしかないでしょう。
せっかく香港で運用しているのに銀行閉鎖という銀行都合で投資商品の売却を余儀なくされるのは顧客にとってあまりにも理不尽で、デモとコロナを隠れ蓑にしてたった5年程度で銀行業務を停止してしまうのは金融人としての自覚と覚悟が足りないと言わざるを得ないでしょう。